とても珍しい技法で作られた陶器の灰皿をお買い取りいたしました。
作ったのは人間国宝である島岡達三で、その珍しい技法とは「縄文象嵌(じょうもんぞうがん)」という技法です。
縄文象嵌は、陶芸作品に縄を使って模様をつけて、その模様をつけて凹んだ部分に別の色の土を嵌め込む技法です。
まず、もととなる陶器を形成し、それが乾ききる前の半渇きの状態で、縄を転がします。
縄を転がすと縄が当たった部分は当然凹みます。この状態で完全に乾かします。そして、全体に化粧土という、下地の土とは異なる土を塗ります。これは、凹んだ部分だけでなく全体に塗るのがポイントです。
化粧土が乾燥したら、全体を薄く削り取っていきます。すると、縄で凹んだ部分には化粧土が残り、もともと平らだった部分は化粧土が全て剥がれ落ちて下地が現れます。
これに透明釉(とうめいゆう)という釉薬(うわぐすり)を塗って焼けば完成です。
非常に手の込んだ技法で、今回お持ちいただいた灰皿には側面の丸い模様の部分にこの技法が使われています。
よく見ると、確かに縄でつけた模様であることが分かります。
全体の模様はモダンでお洒落な市松模様ですが、この縄文象嵌が施されていることによって個性的で飽きのこない一級品となっています。
作者である島岡達三は、組紐師(くみひもし)という、複数の紐を組み合わせて編み上げる紐を作る職人の父のもとに生まれました。組紐は、着物の帯留めなどに用いられ、結んだ時にほどけにくいのが特徴です。弓具や馬具にも使われていて、ほどけると困るようなところで活用されます。
島岡達三がやがて縄文象嵌という縄を用いた技術を会得するに至った背景には組紐師であった父の影響が強いと言われています。
島岡達三は現在は上皇となった平成天皇が「生前退位のお気持ち」をお話しになった際に、陛下の後ろに飾ってあった大きな皿を手掛けた人物です。
天皇家にも献上される一級品を作るその技術は、まさに人間国宝に相応しい唯一無二のもので、非常に価値あるものです。
そんな島岡達三の作った灰皿は、愛煙家の方にはもちろん、そうでない方もインテリアとして居間や玄関に飾りたくなるような逸品です。